[連載]マンガ・日本メイ作劇場第5回

元気娘の行動に、周囲がざっぱざっぱと迷惑を被る『アンジェリク』

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『アンジェリク』1巻(木原敏江、
秋田書店)

――西暦を確認したくなるほど時代錯誤なセリフ、常識というハードルを優雅に飛び越えた設定、凡人を置いてきぼりにするトリッキーなストーリー展開。少女マンガ史に燦然と輝く「迷」作を、紐解いていきます。

 『アンジェリク』は面白い。17世紀フランス、美しい緑の目を持った美少女アンジェリクが、波瀾万丈な人生を歩む話だ。実家が夜盗に襲われ、結婚した相手は失墜し、自分は盗賊に成り下がるけれども盗賊団が崩壊。後にまた宮廷に復活し……と、あれよあれよという間に環境が変わる。冒険に次ぐ冒険。事件に次ぐ事件。読者はアンジェリクの行動力と活き活きとした性格に強く惹かれ、そして彼女の人生に憧れ、次々と降りかかる事件をハラハラしながら読むことだろう。

 事の起こりは、自分の家が夜盗に襲われたこと。しかしその原因は、アンジェリクが危険な森の中を通って帰ろうなどと言いだしたことだ。お供のニコラは「危険だからやめよう」といなしているにもかかわらず、森にずんずんと入っていって、まんまと夜盗に会い、それを助けたジョフレが夜盗の一人を斬ってしまったことから、報復され、村ごと焼かれるのだ。

 アンジェリクは自分のおてんばが原因で事件が起こったことに深く反省したはずだ。今度はいとこの伯爵の家に乗り込んでいって、彼らの陰謀を目の当たりにすると、事の重大さも理解しないまま、陰謀の証拠物件を隠してみたりする。これがまた後々大事件になり、いったい何人死んだか。

 そう……『アンジェリク』は、行動力だけはやたら立派で、外に出る度に事件を起こす、大変迷惑な女の話なのである。作中でも「私に関わるとみんな不幸になるの」などと泣いているけれど、そりゃそうだよ。だって行動には必ず結果がついてくるんだから。その結果が予測できないお馬鹿が元気に活動したらどうなるか。周りの人間は迷惑をざっぱざっぱとかけられまくりだ。

 そして天使の名前を持つこの少女(天使はフランス語で「アンジェ」)は、男性たちにも惜しみない愛をそそぐ。この話に登場する初恋フィリップ、婚約者ジョフレ、幼なじみニコラというイケメンたちはみな非常に貞節正しく浮気もないのに、アンジェリク一人でこの3人を渡り歩くという奔放っぷり。

 ジョフレとニコラに女の影を発見し、ワンワン泣きながらフィリップと一夜を過ごしてしまうというシーンがある。気がついたら朝、裸でフィリップと寝ていて大ショック、ということになってるけど、酒も飲んでないのに記憶が飛ぶ訳ないだろう。おまけにその後、わざわざニコラのところに行って「フィリップと一夜の過ちを犯してしまったの」「でももうしないわ、ゆるしておこらないでね」などとカミングアウト。わざわざ報告することじゃないはずだが。怪我で寝てる男に向かってさ。「俺が相手をできないからかな」とかニコラが男としての自信をなくしたらどうするんだ、かわいそうに。

 そして男女の仲が壊れる時、捨てる相手に情を残さないのは、世の鉄則だ。捨てられる方は、どうしたって辛いのだ。その相手に「別れてもいい人だと思われたい」は、自分のエゴなのである。ダメな女と別れたと思う方が、スッキリ早く忘れられるんだからさ。しかしアンジェリクは、ジョフレを選んでフィリップを捨てるという時に、その別れ際、髪をもらったりキスをしたりと、イチャイチャの大披露宴。ジョフレもよく黙って見ているものである。なんの罰だよ、かわいそうに。

 そういえば恋敵のカルメンシータを、自分で刺しておいて「死なないで、死んじゃダメ」とか言ってるし。どうにも、「いい人」というよりは自分勝手に見えるんですが。

 原作小説もまあ大変な大河っぷりだけど、この話の連載当時は、「女の自立」とか言ったって1970年代、男に頼らざるを得なかったのでしょうし、そういう社会事情を踏まえると、アンジェリクがどうにも失敗が多くて自立できてないのも仕方がない。

 しかし全体的には起伏に富んでいて大変楽しいお話である。彼女の奔放さには、ちょっと(いや、かなり)目をつぶってやってもいいのかも……。

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■メイ作判定
名作:迷作=5:5
(文・イラスト=和久井香菜子)

和久井香菜子(わくい・かなこ)
ライター・イラストレーター。少女向けのコラムやエッセイを得意とする一方で、ネットゲーム『養殖中華屋さん』の企画をはじめ、就職系やテニス雑誌、ビジネス本まで、幅広いジャンルで活躍中。 『少女マンガで読み解く 乙女心のツボ』(カンゼン)が好評発売中。

『アンジェリク (1)』

天使のような悪魔の笑顔ってことですよ

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