[連載]そうだソルティー京都、行こう

もう許してやってくれ! 裏切った男への怨念がいまだ続く「祇王寺」

 京都は、世界屈指の観光地。そして女の憧れの地である。美味いもん食って、寺社を見て、お洒落して、勉強する。何でもかんでも「京都でする」のが女の憧れなのだ。女性誌はこぞって京都特集を組み、ガイド本や京都観光エッセイがボロボロ出版されている。確かに京都には歴史がある。名産品がある。美味がある……そして誰も取り上げないけれど「しょっぱい京都」もある。

 しかし京都のほんとうの魅力は、こういうソルティーなところにあるのだ。上品ぶっている女性誌では取り上げないほんとうの京都の姿を、しっかり焼き付けて欲しい。そうだソルティー京都、行こう。

【第3回 祇王寺】

 古来から日本人の価値観に寄り添って来たのが「切ない」という感情。この「切ない」お話で涙を誘うのが、平家物語に登場する、祇王の物語である。

 時の傲慢支配者、平清盛に白拍子として囲われていた祇王。ある日、仏御前という若くて美人で舞の上手な白拍子が、清盛のために舞いたいとやってきた。追い返す清盛だったが、「まあまあ会っておあげなさいよ」と心優しく祇王が取りなし、会わせてやったら、清盛はすっかり仏御前が気に入り、なんと祇王を追い出したという。

 ここまでの話だけでもちゃぶ台転覆ものだけど、その上清盛は、追い出した祇王を呼び出し、「なんか舞えよ」とか言って、ふたりの前で祇王に舞を舞わせるのである。屈辱の祇王は自宅に戻り、失意のまま出家する。しかしある日、仏御前がやってきて、「私も仲間に入れてちょうだい」とせがむ。祇王たちの身の上に人ごとならぬ思いを感じた仏御前は、無常な世を捨ててきたというのである。こうして祇王、祇女、その母と仏御前の4人が静かに暮らした地に建てられたのが、祇王寺である。

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 静かな嵯峨野の地にある祇王寺は、嵐山からも少し時間がかかるし、「行ってみたいけど今度かな」と思いが募る憧れの切ない寺である。そしてその寺には、期待以上の隠された演出が待っているのだ。

 まず、入り口で入場料300円を払い、小道を進む。嵯峨野らしく慎ましやかで、ほどよく手を入れたような……入れてないような……わびさびな庭を見て歩く。この辺はまだ普通に、祇王の悲しい運命に心を痛めたりしながら歩こう。

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iPhoneで何気なく撮っただけでもいい感じに写るお庭。

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なぜかいきなり苔の羅列。こういう突飛なところがソルティー観光地
の共通項である。

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小さな庭をぐるりと見て回り、最後にたどり着くこの
庵で、祇王寺の底力を見せつけられるのである。まず
この庵が、ぜんぜん寺の様相をしていないのだ。全部
で2間

 庵の奥の部屋には、これまたソルティー観光地が大好きな風景写真が飾ってある。まるで豪農の居間のようだ。手前の部屋が本堂? らしく、左側にご本尊がある。しかしなぜか右側には、一人掛けのソファがふたつ。

 そしてご本尊前には、インターホンのようなボタンが。わびさびを求めてやってきた参詣者たちに、ご丁寧に祇王や仏像などの説明テープを聞かせてくれるのだ。これが、後から参詣客が来る度にボタンが押されるため、そこにいる間中ひっきりなしに鳴り響く。

 庵から庭をのんびり眺めようにも、じっくりお祈りしようにも、延々と木造やら祇王やらの説明が流れてて、心休まるどころではないのだ。切ないお話を堪能させたいなら、いらなくね? 音声ガイド。パンフレットでいいんじゃね?

 そしてご本尊の前に立つと、この寺でもっとも切ないものが目に入る。そこには、祇王、祇女(妹)、刀自(母)、仏御前と、清盛の木造が置いてある。撮影不可なので写真はないのだが、5つ並べて安置してある台の前には、かまぼこ形のくりぬきがいくつかあり、そのくりぬきから木造が見られるようになっている。

 しかし、ここが問題である。清盛像だけ、くりぬきとくりぬきの間の柱の後ろに置いてあり、偉いこと首を伸ばしても、ちゃんと顔を見ることができないのである。祇王に仏御前よ、お前たちはやはり清盛を許してはいなかったのか……! 祇王寺の切ない縁起に心惹かれてやってくる数多くの女参詣者たちに、最後の最後に見せつけるのが、この恨みのこもった木造配置なのだ。

 そう、この寺は、無常な切ない世を噛みしめるために訪れるのではなく、男の浮気や心変わりにビシリと釘を刺す、戒めの寺としてお勧めなのである。

 ちなみに祇王寺は大覚寺とつながりがあるらしく、共通チケットが売られている。通常800円のところがふたつで600円になるので、こちらの購入をお勧めしたい。大覚寺は、ただただ静かで大きな、心静まる寺である。祇王寺で彼の心を震え上がらせたら、お口直しに向かうとよいでしょう。

【後日談】
『平家物語の女性たち』(永井路子)によると、祇王・祇女は架空の人物の可能性が高いのだとか。えっ、じゃあこの寺は?

和久井香菜子(わくい・かなこ)
ライター・イラストレーター。少女向けのコラムやエッセイを得意とする一方で、ネットゲーム『養殖中華屋さん』の企画をはじめ、就職系やテニス雑誌、ビジネス本まで、幅広いジャンルで活躍中。 『少女マンガで読み解く 乙女心のツボ』(カンゼン)が好評発売中。

『京都手帖2011』

「いやぁ、京都って本当(ほんっとう)にいいもんですね~」(晴郎風に)

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