[連載]安彦麻理絵のブスと女と人生と

「江角マキコですら可愛くなるチーク」に浮かれた女の、チーク100回叩き地獄

2011/01/02 17:00
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(C)安彦麻理絵

 年末進行で疲弊した心と体は、ティーヌンのトムヤムラーメンを求めていた……それもただのトムヤムラーメンではなく、「具・全部のっけ」のデラックス・トムヤムラーメン、略してデラトム(お値段1,000円)。

「今日の昼は絶対にデラトムを食べよう!!」

 ……数日風呂にも入らず、頭も顔も洗わずの「女としていかがなものか」という状態だったが、デラトムのすっぱからい誘惑に負け、寒風吹き荒ぶ早稲田の街に飛び出した私である。時間は昼の11時ちょっとすぎ。このぐらいの時間なら混雑してないだろうと思いきや、何故か店内は大勢の客でごったがえしている。とりあえずカウンターの席を確保して、それからタイ人らしき店員の男に威厳のある声で一言。「デラトム、中華麺で」

 しかしその店員は私の注文をはねのけるかのように「今日、サービスデー、コレ!!」と別のメニュー表をつきつけてきた。なるほど、その日はちょうどトムヤムラーメンが390円の日だったのである。「それでこんなに人が来てたのか……」次から次へと押し寄せる客は皆、390円のトムヤムラーメンを注文している。しかし、私の心と腹に迷いはなかった。

「今日はデラトムできないんですか!?」「イヤ……」「だったらデラトムでお願いします!!!」

 せっかくのサービスデーなのにそれでもデラトムを要求する、デラトム狂いの女。しかも薄汚い……タイ人店員の目に、私はどう映ったろうか? ほどなくして目の前にデラトム到着。レンゲで赤いスープをすすりながら私は、今日の自分の選択が間違っていなかった事を確信した。ただとりあえず、ひたすらうまい……、疲弊した心と体にトムヤムスープが染み渡る。

 そんなふうにデラトムを食しながら、私はここ数日心を奪われている「ある事」について考えていた。その「ある事」とは。花王ソフィーナ・オーブクチュールから出たチークである。「この私がポンポンするだけで可愛く見える!!」という超・秀逸なコピーと一緒に江角マキコがピンクの頬で笑ってるCM(秀逸すぎる!! と、最近一番うならされたCMかもしれない)。それを見て、私だけではないだろう、世間の女たちは皆、「江角マキコですら可愛くなれるチーク……!!!」と、目が釘付けになったに違いない。なにしろ、どこをどうぶった切ったって「可愛い」の3文字がチラ見えする事のない江角が……そのチーク効果だろうか、確かになんとなく可愛く見える……

「大人可愛い」って、こーゆう事をいうのかも……?

 で、この、「デザイニングパフィーチーク」は、通常のチークとは違い、直接頬にスポンジをポンポンするタイプのチークである。どのへんにポンポンすればいいのか分からない人のために「チークナビ」という輪っかまでついている。

「これ食べ終わったら、近所のドラッグストアに寄って、ちょっとためしてみよう!!」

 デラトムをスープまで全て完食し、支払いを済ませ、身も心もHOTになった状態で私は「江角チーク」を求め、急いで近所のドラッグストアに足を運んだ。そしてウキウキしながら、ソフィーナの売り場に向かったのだが、そこには情け容赦のない張り紙が……。

「こちらのチークをお求めのお客さまは、お近くの店員まで声をおかけ下さい」

 なぜ……なんで?? なんでテスターが出てないんだよ~~~!! と、薬局の中心で不満を叫びたくなったが、でもまぁ大人なんだから、と、グッと感情を押さえ、店員に一声かけようとして、はたと思いとどまった。「こんな薄汚いスッピンで、しかもトムヤムくさい息で、このチークためさせてください、ってどうよ?」それはやはり、どう考えても「女としていかがなものか」と思われた。「とりあえずここは、いったん帰って@コスメのクチコミに目を通してから出直そう」。

 後ろ髪をひかれるような思いで帰宅後、さっそく@コスメのクチコミを検索。案の定、「私も江角さんのCMにつられて」という、大人可愛くなった江角にまんまとやられた女たちが、大多数を占めていた。で、肝心の商品としての評価はと言えば。これが案外、「低い」のである。何故低いのかといいえば、クチコミを読んで私は「あ~、これもそうなんだ」と、ちょっと納得してしまった。実は私も、この「ポンポンタイプのチーク」、ソフィーナじゃなくて他社のメーカーのものを使った事があるから分かるのだが、「とにかくいくらポンポンしても、うまく色がつかない」「ポンポンしすぎて粉飛びする」など、はっきりいってあまり使い勝手がよろしくないのである。

 @コスメのクチコミの中には「100回くらいポンポンしてもうまくつかない(泣)」などという、その絵ヅラを想像したら爆笑するしかないようなクチコミもあったが、確かにその通り……。かくいう私も、「ポンポンチークの100回叩き」を経験した事のある一人である。なんかうまくつかねぇなぁ~、なんて苦渋の表情で、イライラしながらポンポンポンポン……はたから見たら「あんた一体何やってんの?」と、不審がられそうな光景である。チークって本来「幸せそうなバラ色の頬」になるためにするもんなのに、それなのに「イライラしながら眉間にシワ寄せてのせるチーク」って本末転倒、一体どうなんだろう??? ざっとクチコミに目を通して、そして深く溜め息……

「今回の江角チーク……ちょっと見送りかな」

 こうして私はまた、己を可愛くしてくれそうな、新しいチーク探しの旅に出るのであった。て言うか、私だけではないはずである。「旅の終わりは、おまえ」的な「おまえコスメ」を探して女はいつも、旅をしている、ような気がする。

『これがオンナのケモノ道 (Fx COMICS) [コミック]』

俺の最後の港はどこや!

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最終更新:2019/05/21 16:34
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