『セゾン文化は何を夢みた』刊行記念インタビュー(後編)

セゾン系を受け継ぐ企業は? 意外な韓国企業に文化の遺伝子が!

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永江朗氏文化シーンの遷移を語って
頂いた

(前編はこちら)

――J文学、シブヤ系と呼ばれていたカルチャーを「セゾン系」と呼び変えたことも、興味深いです。

永江 無理矢理なところもありましたけれども。「文藝別冊」(河出書房新社)に、阿部和重とか、保坂和志、中原昌也、批評家だと佐々木敦とか……この人たちが実は、かつてセゾングループの現場にいた人たちなんだということを、J文学の一部は実はセゾン系なんじゃないかと書いたんです。すると、編集者から書籍化しませんかというお話があって、同時代史を書き残しておこうということになったのが、この本の最初の構想です。セゾン文化の当事者のインタビューを中心に構成することになりましたが、特に、堤さんには一連の文化事業についてどう考えていたのかをきちんと聞いておきたかったし、セゾン文化の中心を担っていた文化事業部部長の紀国憲一さんに至ってはなかなか表に出てこない方だったので、肉声を残しておきたかった。この本は、とりあえず自分のけじめとして記録しておきたかったものの集積なんです。

――たしかにセゾン文化はもう死んだ。この本については、自分なりの「遺骨収集」だ、と書かれていますね。構想から13年という長い期間もかかったと。

永江 この本について考えはじめた90年代後期、セゾングループはバブル的なものの象徴として世間からは叩かれている状態でした。でも、内部にいてある程度状況を知っている立場からすると、文化事業にうつつを抜かしていたわけでも、そこにお金を浪費しているわけでもなかったし、それなりに必然性があり、それなりに残したモノもあっただろうと。セゾンを離れた後に、いまは文化の作り手になっている人もいるように、社会に残したものもきっとあっただろう、ということです。
 ただ、セゾングループが、ああいう形で失敗してしまったことによって、あらゆる可能性を食いつぶしたわけではないものの、「もうその繰り返しはできない」という思いを、のちの時代の人たちに抱かせてしまったかもしれないなとは感じています。それに加えて、日本経済や、経営者に余裕がなくなってしまって、ムダなものはいらない、と、コストカットに走るようになってしまった部分も大いにもあると思う。しかもいまは「断捨離」みたいなものが受けているわけだし……いいじゃん、ムダなモノに囲まれていたって(笑)……それが人生というものだし、と。

――勝間和代や、そのフォロワーも、その流れですよね。

永江 60年代いっぱいビートルズが活動してから、80年代の音楽シーンにいたるまでが、大衆文化が成熟していった時期で、その後は同じことの反復になってしまっているんだろうと思います。そういう意味では、80年代カルチャーが「新しいこと」をやり尽くしてしまったといえるだろうなと。セゾン文化に限らず、時代としてそういうことだったという背景もあるでしょう。……私たちが20代だった頃に「全共闘オヤジたちによって、俺たちの可能性は全部食い尽くされてしまった」と強く思っていたことと同じようなことが言えるんじゃないかと。ペンペン草も生えないような状況になってしまったわけで。そしてさらに、リクルート的な「あなたは本当の自分じゃない」というメッセージの求人広告に追い立てられて、それで不安になっていった人は多いと思います。

――現在、かつてのセゾン的なものを担っているものとして考えられるのは何でしょうか。

永江 『セゾン文化~』の中でも少しだけ触れましたが、人材を輩出していている、という点では、サントリーでしょうか。サントリーの広告を手がけていたサン・アド出身の優秀なクリエイターが多いですよね。ただ、会社としてのスタンスはやはり若干違う。あとは、阪急もすごいのではないか、と。宝塚劇場や、出版社の阪急コミュニケーションズ、書店のブックファーストも傘下にある。ただ「Pen」や「FIGARO」といった雑誌を、堤さんや紀国さんが言っているような「イメージ作りとのために」という意味では、積極的に使ってはいないですよね。それに東京には阪急の電車が通っていないからかもしれないけれど、文化的な事業を企業宣伝につなげられてはいないという点で、セゾンのやってきたこととはずいぶん違うだろう、ということになってしまいます。

――そこまで腹が据わって、戦略的に文化を扱っていこうという企業はもう、ないのかもしれませんね。

永江 ただサムスン電子は、ちょっと他の企業とは違うかもしれません。実は、カンカンポア(アール・ヴィヴァン渋谷店)に自分がいたときに、サムスン電子の人が定期的に店に来ていて、大量に美術書を購入して行ったんです。資料を組織的に集めていたんでしょうね。一カ月から二カ月に一回くらい来ては、領収書を「三星(サムスン)電子」宛に発行してくれと言われて。2004年にオープンしたサムスン美術館にはかなり行きたいなと思っているんです。古い、伝統的なものを集めた美術館と、近現代美術を展示した現代美術館と、さらにワークショップ的に未来を扱う特別展示のセクションと、三つに分かれていて。建物も現代最高の建築家によって造られているんだそうです。サムスンのスタッフがカンカンポアに買い物に来ていた頃から、この美術館ができるまでは二十年近く経っていますから、付け焼き刃で取り組んでいるものではないはずです。「文化」に本気で取り組もうとすると、それくらいの年月はかかるものなのでしょうね。
(香川 文)

永江朗(ながえ・あきら)
1958年5月9日生まれ、北海道出身。フリーライター。大学在籍中に西武美術館でアルバイトを始め、その後セゾングループの洋書店「アール・ヴィヴァン」に勤務。カルチャー誌の編集、ライター業を経てフリーライターとして活動を始める。著書に『「批評の事情 不良のための論壇案内』『平らな時代』(ともに原書房)、『インタビュー術!』(講談社現代新書)、『アダルト系』(ちくま文庫)などがある。

『セゾン文化は何を夢みた』朝日新聞出版

二十代をセゾングループの一員として過ごしてきた永江朗氏が、堤清二会長以下、当時の関係者へのインタビューを基に「セゾン文化」が与えた影響を改めて問い直す。

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