『あぶな絵、あぶり声~滴~』刊行記念インタビュー

声優とイラストレーターが種を蒔いた、ミニマムな情報から膨らます官能の世界

2010/07/17 11:45
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イラストを背に、朗読する岩田さん

 見開きのページいっぱいに横たわる女性の身体。抑えられた色彩と、無駄を削ぎ落とした構図がかえって、女性の美しさを引き立てる。髪が流れる音や彼女の息づかいまでが聞こえてきそうなぐらいに――。”視覚と聴覚の両面からラブ&セックスの世界へ誘う四編のストーリー”と謳われているとおり、イラストレーター・石井のりえと、声優・岩田光央のユニット”カナタ”の第一弾作品『あぶな絵、あぶり声~滴(しずく)~』は、イラストと文で構成されるピクチャーブックに、それを朗読したCDを付属。収められた4篇のストーリーからは、視覚と聴覚を刺激されるだけでなく、女性が肌につける香水の香りや、抱き合っている男女の肌のぬくもりまでもが伝わってくる。五感すべてを刺激する、新ジャンルの官能メディアだ。

 発売に先立つ6月に東京・青山で行われた公演では、ピクチャーブックの朗読にも参加している声優・森川智之をゲストに迎え、おとなの女性の官能をくすぐる朗読劇が展開された。

――官能的な物語をイラストと朗読で表現するというのは、これまでにない試みですね。

岩田光央(以下、岩田) 石井さんから「私のイラストと文に朗読をつけてください」と企画の打診があったとき、一目見てそのイラストに惚れこんでしまったんですね。僕自身、美術やデザインを勉強した経験があるものですから、日本画のような美しい絵にまず惹かれました。そこに朗読をプラスするというアイデアがまた素晴らしかった。これまでの朗読って、宮沢賢治とか『スーホの白い馬』とか、純文学や絵本を読むイメージ。それはそれでいいけど、もっと身近なものであっていいと以前から思っていたんですよ。人間の三大欲求=睡眠、食欲、性欲を土台にして、喜怒哀楽っていう人のいちばんベースとなる感情を表現するというのが、新しいと思ったんです。

――公演を女性限定、しかもR18指定で行ったのはどうしてですか?

石井のりえ(以下、石井) 私はこれまでイラストレーターとして、官能小説の表紙を多く手がけてきましたが、その読者対象は主に男性です。でも同じセクシャルなイラストでも、女性誌に描くほうが自分がのびのびと取り組めることに気づいたんですね。だからイラストと文章で官能的なストーリーをつづるという企画が始まった当初から、女性に共感してもらえるものを作りたいと思っていました。

岩田 4編のストーリーに登場するヒロインたちと同じように、自立しているオトナの女性に見て、聴いてほしかったんです。仕事をして、恋をして、喜んだり悩んだりという毎日をリアルに送っている女性。似たような恋愛を自分自身がしたことがある、または友だちから相談されたことがあるといった経験がある人になら、物語をただ受け止めるだけではなく、イラストの余白や、文章の行間に自分なりのドラマを見つけてもらえるんじゃないかと期待してます。

――イメージを広げられる女性限定、ってことですね。

岩田 現代って情報があふれすぎていると思うんです。たとえばテレビを見ていても何にでもテロップが入っているから、自分で考える必要がない。対してカナタの公演は、イラスト、声、ピアノ、SEだけで構成されています。情報が制限された、とてもミニマムな世界。だからこそ、想像でいくらでも膨らませられるんですね。ちょっと大げさな話になっちゃうけど、日本人はもともと侘び寂びという考えを持っていて、ミニマムな要素のなかにマキシマムな世界を見い出すことに長けていたんですよ。情報が豊富にあるのはとても便利だけど、大事なものを見失っているように思えてならない。もっと想像してほしい。カナタを通して、イマジネーションを養ってくれるとうれしいです。

石井 イラストには男性の顔や表情をほとんど描きませんでしたし、それとは逆に朗読では女性のセリフや心情もすべて男性の声で語られます。彼はこのときどんな表情をしていたんだろう、彼女はどんな声で彼に大事なことを告げたんだろう――一つひとつ考えると物語がもっと深く、もっと身近なものになります。女性って好きな人ができると相手のことをいろいろ考えますよね。メールの返信がくるまでの時間や、たったひとつの絵文字にまで、彼の気持ちを読み取ろうとする。それと同じことです。

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「BLの帝王」森川さんは甘い声で観客を魅了

――おとなの男女の性愛をつづった朗読劇のゲストに、森川智之さんをキャスティグされたのがユニークでした。

岩田 最初から「彼しかいない!」って思ってましたよ、僕は。声質がまったく逆っていうのが、まず最初の理由。もうひとつの理由は、ご存知のとおり、彼が”BLの帝王”と呼ばれているからです。BLのタチもネコも演じている彼の声で、おとなの女性たちにとって本来、最も身近であるところの恋愛とセックスを読むことに意味があるんです。彼を目当てに来た女性にBLとはまた違う官能の世界を伝えたい、という僕のイタズラな思惑もあったんです(笑)。成熟した男性の色香がほとばしっているような彼の声でなら、それを表現できるし、ちゃんと伝わるだろうって確信していました。

――従来のファンのなかには驚かれる方もいるかもしれませんね。

岩田 カナタにはお客さまを選んでしまうところがあるかもしれない。でも、縁があって聴いてくれた人には成熟していってほしいなと思っています。僕らもまだまだ成熟していきますから。

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『あぶな絵、あぶり声~滴(しずく)~』

――近年では女性向けのAVまで登場していますし、上質の官能というのがいちばん難しいかもしれません。性描写が卑猥すぎると手を出しにくいけど、上品すぎても物足りない……。『あぶな絵~』では、それがほどよく表現されていると感じました。

石井 ふつうの恋愛を描こうと思っていたんですね。月9のドラマみたいに、現実離れした登場人物たちが美しい恋愛をするストーリーって、素敵だけどリアルではない。さらに、言うまでもないことですが岩田さんも森川さんも、声と表現力がほんとうに素晴らしいから、聴く人がドキドキするようなセリフや描写をその口から言ってもらって、トキメキを刺激したりセクシーな気持ちを盛り上げることって実は簡単なんです。でも、ほんとうの官能って、もっと身近で、かつ複雑だと思うんですよね。ざわざわした気持ちや、やりきれない思いも含めて官能だと思うんです。

岩田 カナタのコンセプトは「ココロの先にカラダがある」。しごく当たり前だけど、とかく忘れがちなこと。そして、恋愛をしている女性にとってはリアルなことですよね。リアルを追究することが”上質”につながると思っています。

――朗読CD付きピクチャーブックというのも、女性にとっては”官能を刺激する”形態ですね。

石井 ページをめくりながら、ヘッドホンで朗読を聴いていると、まるで耳元でささやかれているような気持ちになると思います。その世界に入り込んで、自分のなかの感情と官能を思いきり解放してください(笑)。

岩田 大いに触発されてほしいですね。20歳の人なら20年生きてきた年輪、30歳の人なら30年生きてきた年輪を基にして、イラストの余白や、声の間(ま)に自分なりの色を塗っていってください。いま聞くのと、5年後、10年後、恋愛経験をさらに積んだうえで聞くのとでは同じ物語でも違って聞こえるはず。そうやって長く付き合ってほしいですね。

 早くも来春の公演が期待しているカナタ。新たなゲストを迎え、新作『あぶな絵、あぶり声~若葉~』を発表する予定だ。女性の官能の扉を開ける”愛交ストーリー”に再び期待したい。
(三浦ゆえ)

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カナタ
石井のりえ・イラストレーター
雑誌や書籍のイラストを中心に、幅広く活躍。団鬼六、館淳一など、官能作家の装画も数多く手がける。繊細でやわらかな印象を残す女性像や、美しい余白が高く支持されている。

岩田光央・声優
演技派声優としてアニメーション作品に多く出演するほか、ラジオパーソナリティとしても活躍中。主な出演作品に『AKIRA』(金田正太郎役)、『空中ブランコ』(岩村義雄役)がある。

次回公演などの詳細は「カナタ」公式ブログ

「あぶな絵,あぶり声~滴~」

オトコには味わえない、官能

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最終更新:2010/07/17 19:46
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