[連載]まんが難民に捧ぐ、「女子まんが学入門」第11回

『ハチクロ』よりも”敗者”にフォーカスした意欲作『3月のライオン』

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3月のライオン1巻/白泉社

――幼いころに夢中になって読んでいた少女まんが。一時期離れてしまったがゆえに、今さら読むべき作品すら分からないまんが難民たちに、女子まんが研究家・小田真琴が”正しき女子まんが道”を指南します!

<今回紹介する女子まんが>
羽海野チカ『3月のライオン』1~4巻
白泉社/各510円(1巻のみ490円)

 すでに各方面で話題のこの作品ですが、本作によって『ハチミツとクローバー』(集英社、以下『ハチクロ』)のヒットがまぐれでないことを、羽海野チカ先生はその圧倒的な筆力で証明してみせました。今後『ハチクロ』を超えるかもしれない大傑作、それが『3月のライオン』です。

 テーマは将棋。東京・月島と思しき下町を舞台に、15歳でプロになった天才棋士・桐山零の成長と、そして主に挫折とを描きます。そう、この作品が描くのは「敗北」。勝負事がテーマとは言え、羽海野先生は安易にスポ根路線に走ることを選ばなかったのです。

 たとえば作品冒頭の対局シーン、師匠でもある義父を相手に桐山は見事勝利を収めます。やったぜ桐山! 勝利だ! さすが天才! もはや師をも凌駕するその戦闘力! ここから新時代の桐山伝説が始まる…っ! かと思いきや、そうはなりません。羽海野先生は、桐山と義父との間にほの暗い闇を匂わせながら、決して勝利の快感を描こうとはしません。

 本作は青年誌である「ヤングアニマル」(白泉社)に連載されています。が、『3月のライオン』のこうした表現は、従来の男性向けまんがとはまったく異なる方法論でありました。いつの時代も男性向けまんがにおいて重視されるのは、かつての「少年ジャンプ」(集英社)が掲げた3つのキーワード、「友情」、「努力」、そしてその結果としての「勝利」。ところが羽海野先生が第1話で描いたのは、ひたすら「勝利の苦味」だけであったのです。

 単行本2巻に入るころから、桐山青年は負けが込み始めます。順位戦で3連敗を喫し、MHK杯でも負け、3巻では辻井九段に勝利しますが、島田八段には完敗します。男性向けまんが誌で、これほどまでに主人公が負ける作品も珍しいのではないでしょうか。そして最新巻となる4巻。この巻は「まるごと1冊島田八段!」と言っても過言ではないほど、薄毛の島田八段の人となりと、その敗北を執拗に描きます。

 10代後半から20代前半までのモラトリアム期を同時代の感覚で描いた名作『ハチミツとクローバー』が「舞台に上がるまで」の物語だとしたら、『3月のライオン』は「舞台に上がってから」、つまり社会に出てからの物語です。そして社会に出てからのわれわれは、実は「勝ち方」よりも「負け方」の方が大切であることを、いつか知ることでしょう。

 勝利や成功は確かに得難く尊い経験でありますし、人々がそれを目指すことは必然であります。だけどそこにたどり着けるのはごく一握りの人間のみ。大多数は夢破れ、人知れず涙するはずです。かつて羽海野先生が『ハチクロ』の中でも森田兄弟の葛藤(天才/凡才)を通じて描いたこの苦悩に、本作はそこにより深く切り込んで行ったのでした。

 恋愛濃度の高い『ハチクロ』から、より広範に「生」を描く『3月のライオン』へ。負けたら終わりの人生などなく、そして人生は続きます。「敗北」をじっと見つめ続ける羽海野チカ先生に、私は表現者としての強さと、そして底知れぬやさしさを感じずにはいられません。悩む桐山青年に、高校の担任はこう言います。「何も成果が無かったなんて言うなよ/がんばってたよ/俺は見てたよ」。羽海野チカという作家の視点が凝縮されたこのセリフを、どうかじっくり味わってみてください。

小田真琴(おだ・まこと)
1977年生まれ。少女マンガ(特に『ガラスの仮面』)をこよなく愛する32歳。自宅の6畳間にはIKEAで購入した本棚14棹が所狭しと並び、その8割が少女マンガで埋め尽くされている(しかも作家名50音順に並べられている)。もっとも敬愛するマンガ家はくらもちふさこ先生。

『3月のライオン』

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