「あたらしい『源氏物語』の教科書」著者・堀江宏樹インタビュー

ブスだって報われたい! 現代女子の道を照らす『源氏物語』二人の不美人

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「あたらしい『源氏物語』の教科書」
(イースト・プレス)

 「どうせ私なんてブスだし」と、自分の外見を卑下していませんか? 外見が悪いからモテない、結婚できないと、自分に希望を持つのを諦めてしまった女性、まずは末摘花(すえつむはな)の図太さを真似てみましょう。ベストセラー『乙女の日本史』(東京書籍)の著書・堀江宏樹氏による新刊『あたらしい「源氏物語」の教科書』(イースト・プレス)は、22名の個性豊かなヒロインの恋愛観を女性目線で読み解いた新解釈の一冊。おひとりさまからキャリアウーマン、勘違い女に不美人までもが登場し、恋愛に悶え苦しむ姿は平安時代とは思えないほど超リアル。そんな現代にも通じる恋愛模様から、不美人なのに幸せを勝ち得たヒロインの生き様について伺ってきました。

――『あたらしい「源氏物語」の教科書』には、こういう女って現代にもいる! というヒロインが大勢出てきました。

堀江宏樹氏(以下、堀江) 21世紀になって出てきたように言われてる肉食系女子、二番手女、おひとりさまといった女性が、『源氏物語』を読むとすでに日本に1,000年前からいたことがわかるんですね。そんな中でも、容貌が特に酷い末摘花や、髪の毛も存在感も薄い花散里(はなちるさと)のように、一見恋愛の落第者みたいな女たちが、源氏に愛されてるのは面白い。二人から学べるものは多いですよ。不美人が外見をいくら取り繕ったって、美人にはなれませんよね。女としての魅力をすべて兼ね備えた横綱級のヒロインと張り合ったって適わないんだから。

――でも、たいていの女子は美人を目指して化粧したり立ち居振る舞いを気にしますよね。ブスが、自分を美人だと思ってやってると勘違い女っぷりが痛々しいんですけど。

堀江 ブスだという自意識のある女子は、ブスに対して目が厳しいんです。だから、あなたもそう(笑)。いくら他人がブスだと思っていても「自分は美人」という自意識のあるタイプは、「あの子、美人だけどあんなことするんだよ」って美人に厳しいことを言う。だから、おそらく紫式部も「自分はブスだ」という自意識があったのだと思う。末摘花の描写なんて、「座高が高い」「鼻が長い」「ゴツゴツした手触り」なんて執拗にルックスを書いてるんです。きっと「こいつ美人でもないのに、調子に乗ってんだぜ」って、筆が進みに進んで仕方なかったんですね(笑)。調子乗ってる女っているでしょ? 源典侍(げんのないしのすけ)という女は、若い頃に美人だったというセルフイメージを持ち続けている女。「目が落ち窪んで、皮膚がしわしわで」とか「歯が抜け落ちて口が萎んでる」、「厚化粧」、「ファンシーな小物を持ってる」とか、そこまで攻撃するの? ってくらい、手厳しく描写されてる。その意地悪い目線って、女が女を評価する感覚そのものでしょ。『源氏物語』は、女への意地悪な目線で書かれてるから、シビアでリアルなんです(笑)。

――地味系のブスと言われている花散里は、どういう女性だったのでしょうか?

堀江 存在も髪の毛も薄かった花散里は、男とも対等に話し合えるある意味、男性的な存在でした。男性は、年をとるほどに話し合える相手が少なくなるけど、彼女は話を聞いてやれる存在だったんです。親友としての妻、親友としての彼女というのは、男目線では必要な存在。花散里は、ライバルである紫の上が相談に訪れるほど慕われていたし、それは聞き上手だったから。聞き上手というのは、不必要なことは「しゃべらない」ということでもあります。花散里は、「女子力」で争ったら他の女には到底勝てない。だから、着る服はこざっぱりとして、色もピンクではなく青みがかった色で、髪が薄くなってもヘアピースをつけず、女という要素を出さなかった。でも、それが「若さ」に執着せず結果として「綺麗」に近づく方法だった。

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花散里はセックスレスでも余裕。漫画:藤野美奈子

――その花散里は、「源氏と会えるだけで幸せ」と悟りを開いてましたね。その境地にはなかなか達せません。

堀江 「愛してるからこそ○○してほしい」とか、そういう「甘え」をうまく律することが出来る人だった。「~でなくてはならない」と言うのではなく、「足りてる」ということを知っている。「こんなに! わたしは! 愛してるのに!」とつめよって、あえなく破局みたいなことがあるでしょ? 愛情ってちょっとくらい欠けてていいんです。腹八分目の愛情というか。

――足るを知るって、かなり難しそうです……。ブスでもてないダメ女なのに源氏に愛された末摘花も印象的でした。

堀江 他の本には書いてないけど、実は彼女って意外と男性経験はあると自分は見てる。ブスゆえに手頃だったのかも。男に気に入られることもあっただろうけど、末摘花の方が断ったんじゃないかな。そんな末摘花が、源氏と結ばれた翌朝、源氏の姿を庭で見て、初めてピンときた。恋に落ちたんです。でも、それから8年くらい放っておかれるんですけど(笑)。それでも源氏を待っている。源氏の悪評が散々流れた時にも、世間の声に一切耳を貸さなかった。自分の「好きだ」という意思を貫いた。そこは、やっぱりお嬢様パワーですね。その一途さが男は好きだったのかなって思う。それこそ、尻軽女には真似できないでしょ? だから意外と侮れないですね。末摘花って、女性が一番軽視するタイプでしょ。

――「8年も会いにこないんだから、あんた絶対騙されてるよ」って誰も言わなかったんでしょうか?

堀江 彼女はそれに耳を貸さなかったからすごいの。友達や周囲の女性たちとつるまない、「群れない」女であったのも、噂や雑音が入ってこなくて良かったのかもしれませんよね。大金持ちと結婚した叔母さんに「私と一緒に九州に行こう、都で待ってても源氏様なんてもう来やしないわよ!」って言われても動かなかった。

――忠犬ハチ公ですね。自分のピンときた感覚だけを信じていたのかも?

堀江 そう。要するに、彼女には自分がブスっていう感覚はないんだろうね。彼女は自分なりに、キレイにする努力をしている。末摘花は、髪の毛がすごくキレイ。毎日手をかけて、梳いて、香りのセンスもすごくいい。後ろ姿とか遠目は抜群にキレイだった。ただ、着物は数十年位前のものを着てる。古いしボロいかもしれないけど、元は高価な着物。彼女を見れば、丁寧に暮らしていることは分かる。その生活力は男性には効きますよね。使い捨ての流行りものを着てても、消費する力しかない相手と一緒に暮らしていこうとは思わない。だから彼女は、一流の不美人。群れないし自分を安売りしないプライドがあって、心ばえは一流。末摘花のこの姿勢は現代女性にも参考になるんじゃないかな。

――群れずに安売りせずに、生活力ですね! それと信じる心。

堀江 これまで、『源氏物語』のヒロインの中でも末摘花と花散里にはスポットがあたってこなかったけど、実は彼女たちから見えるものは大きい。ルックスって、現代でも別れの決定理由にはならないでしょう。なのに外見だけ磨くのはそのほうががラクだから。外見ではなく、心を磨いて「心ばえ」を良くすること。平安から変わらないモテへの道です。

堀江宏樹(ほりえ・ひろき)
作家。1977年生まれ。大阪府出身。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒。性別を超えた軽妙かつ、独特な論調で幅広いファンをもつ。近著の『乙女の日本史』(滝乃みわこ氏と共著/東京書籍)は「さよならおじさん史観」のキャッチフレーズで、日本の歴史認識 に新たな視点を切り開き、女性を中心に多くの読者に支持を得てベストセラーとなる。今春より、「朝日中学生ウイークリー」にて「歴史に花咲く女たち」連載スタート。西武池袋本店内「池袋コミュニティカレッジ」にて、女性向けの講座を10月から開始予定。

・公式ブログ「橙通信

■トークショー決定■
6月13日(日)16:00スタート/開場15:30
場所:紀伊國屋書店新宿本店 9F 会議室
チケット予約・お問合せ:紀伊國屋書店新宿本店  5階人文書カウンター(代表)03-3354-0131

「あたらしい『源氏物語』の教科書」(イースト・プレス)

「源氏物語」は、”夢見がちな恋愛ファンタジー”でも”優雅だけどHな小説”ではなく、実は、平安の男女の「出会いと別れ」を描き、1,000年後の厳しい恋愛事情までをも予言した、とても「リアルでシビア」な小説だった!  おじさん目線、文学者からの解釈から離れ、現代女性のための笑えて切ない「源氏物語」入門書。ヒロインたちの魅力に気付く、新解釈の一冊です。

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