『捨てられ女の処方せん』著者インタビュー

捨てられ女たちが教える、浮気された経験との上手な付き合い方とは?

2010/03/23 11:45
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 ”浮気したけど妻が好き。そんなのアリですか?”とは、某恋愛コメディー映画のテレビCM。それがアリなのが男で、ナシなのが女。浮気をする男と、される女。そしてその終わりなき抗争に終止符を打ち、新たな人生を歩み出そうとするのは、いつも女だったりする。

 妊娠中に発覚した夫の浮気と夫婦再生までの過程を赤裸々に綴った『カマかけたらクロでした』(メディアファクトリー)の筆者、イラストレーターのうえみあゆみさんが、今度はそんなたくましい女たちの”自分再生ストーリー”を描いた『捨てられ女の処方せん』(ワニブックス)を発売。かなりディープな内容ながら、ポップな絵柄でつい吹き出したり、いつのまにか涙が頬をつたっていたり……。浮気された過去から立ち直るためには何が必要なのか? 浮気され体質な女を代表して、インタビューしてきました!

――『捨てられ女の処方せん』を読み終わった後、なぜこんなにも清々しいのでしょう?

うえみあゆみさん(以下、うえみ) まぁ皆さんドロドロした話なんですけどね(笑)。この本を書くにあたって、多くの人に取材させてもらったんですが、浮気という事実をすでに消化した人の話だけを取り上げるようにしました。まだ本人の中で怨念渦巻いてる状態だと、冷静に話ができないんですよ。自分の中でケリをつけた人は、憑き物が落ちたように表情も晴れ晴れとしているし、考えた方も前向きになる。相手への恨み節を超えたところにある真実が知りたいと思いました。

――『カマクロ』でのご自身の経験があったから、本書があると?

うえみ そうですね。私も結婚したばかりの頃、「自分が家族を作ろう」と必死だったんですよ。でも夫の浮気という事件を経て、やっと自分は家族の中の構成員の一人なんだって考えられるようになった。夫のことも一人の人間として理解できたような気がします。まぁそうなるまで3~4年はかかりましたけど(笑)。浮気されても、離婚や別れ以外の選択肢があるってことを提案したいと思いまして。

―――その3~4年で、何が一番キツかったですか?

うえみ ちょうど下の子を妊娠中に夫の浮気が発覚して、ほどなくして私が家を出ました。身体ももちろん大変だったんですけど、1日1回、浮気された記憶が怒りとともにフラッシュバックするんですよ。それがきつかったです。それには時間をおいて、距離をおいて、怒りのモーションが出なくなるまで忘れる時間が有効でした。幸せだった日々や、浮気発覚後のケンカだけの日々など、過去ではなく”今”を見ることが大切に思えました。

―――やっぱり、既婚と未婚では浮気された後の対処は違いますか?

うえみ 違いますね。既婚でも子供がいる、いないで大きく違う。結婚して子供がいたら、互いの家族や自分たちの役割など、社会的なものと対峙して、恋愛中よりもう一段上の人間関係を作らなければいけないし。この本では、人生で一度はダメになった人ともう一度つながって、関係を見つめ直すという方法があるんだよ、と提案したかったんです。

――「許す」とは違うんですか?

うえみ 違いますね。「許す」というのは、「行為」を許すということだから、浮気された相手を最終的には許せていないんですよ。自分を裏切って、浮気した相手を認めてあげるってことが大切だし、それによってその後の結論も変わってきます。

――たしかに、第一話の『夫婦再生』のお二人は、子供もいなくて離婚の障害も少なそうなのに、別れなかったですよね。

うえみ 奥さんが夫のことを「尊敬してる」方でした。私にはそれが不思議でした。私にその観念がなかったから(笑)。でも話を聞いていくと、夫婦でいたいと思うがために無理をしてたんですね。それが浮気というきっかけで崩れた。尊敬する夫を”虫”って呼ぶようになったんです。

―――すごい転落っぷり……。

うえみ だけど、虫呼ばわりしているうちに、怒りも冷めてしまったんでしょう。彼が自分のこと「虫が帰ってきました!」って自虐的に呼んだことをきっかけにして、新しい関係が出来上がったみたい。浮気=即離婚ってなりがちですけど、怒りが収まるのを待ってから考えても、夫婦間なら遅くないと思います。あくまでも夫婦なら、ですけど。

―――なんていうか、浮気ってHしたことが嫌なんじゃなくて、自分の知らない一面をその相手に見せてることが許せないんですよね。しかも同時進行で。夫婦だと許容してあげるべきなんですか?

うえみ 「浮気をするなら、その事実を墓場までもっていく覚悟と度量が必要だ」って、まずは多くの男性に言いたいですね。するなら、もう徹底的に隠せ! まぁ、バレますけどね(笑)。女の子に言いたいのは、結婚相手とは一生恋愛状態ではいられないってこと。恋人から同志になり戦友になっていく感じですね。それが最終的には家族や夫婦って呼ばれるものになるんじゃないかと思っています。

――それが夫婦の再生ということなんでしょうか。

うえみ 夫っていうフィルターを外してあげることで、素直になれることもあります。夫、父親っていう役割と違うところで接したら、すごい良いヤツだ! とか。恋愛関係に戻るという意味での復縁とはちょっと違うかもしれないですけど。『捨てられ女』でも、浮気して、離婚して、絶対的に失うものが多いのは男性の方。話を聞いたら、男性側は大抵悲惨なことになってますし(笑)。浮気という事実があっても、それでもやり直したいと思う何かを感じたら、結論を急ぐことはないと思うんです。だって一度は好きになった人だもん。ボロボロになってしまえ! って願いつつも、実際はそうなって欲しくなかったりしません?

――確かに、女性ってそういう部分がありますよね。最後に、現在浮気のことで悩んでいる女性にメッセージを。

うえみ 今あの人はどこにいて、誰と会って、自分には言ったこともない甘い言葉を囁いているか、と妄想している人も多いと思います。だけど、それはあくまでも妄想で、事実じゃない。「悪い方にしか考えていないな」と自分で認識することが大切です。訳もなくイライラする事って時々ありますが、これが生理前だと分かると「だからかぁ」って認識して納得するあの感じです。それで友達に電話したりメールしたり、自分の現実をネタに笑ってもいい。「あぁ、私はまだ笑えるし、聞いてくれる友達がいる」と思うと、自分がいかに満ち足りているかが分かります。妄想にイライラするのではなく、しっかり「今」を見つめて、考えてくださいね。

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うえみあゆみ
1975年、東京生まれ。1998年、多摩美術大学グラフィック専攻卒業後、CMプランナーとして活躍。出産を機にイラストレーターに転向。著書に『誰?!テーブルにハナクソ置いたのはっ!!』(ジュリアン)、『カマかけたらクロでした』(メディアファクトリー)。近著に『ラブロママン』(ブックマン社刊)。

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最終更新:2018/08/14 19:24
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