[連載]まんが難民に捧ぐ、「女子まんが学入門」第7回

『にこたま』卵子と性欲に振り回されながらも、男女が求め続ける「他者」

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渡辺ペコ『にこたま』1巻/講談社

――幼いころに夢中になって読んでいた少女まんが。一時期離れてしまったがゆえに、今さら読むべき作品すら分からないまんが難民たちに、女子まんが研究家・小田真琴が”正しき女子まんが道”を指南します!

<今回紹介する女子まんが>
渡辺ペコ『にこたま』1巻(以下続刊)
講談社/580円

 この本が「VERY」(光文社)読者の聖地・二子玉川高島屋の紀伊國屋書店に平積みされているのを見たときには、思わず爆笑してしまいました。だって『にこたま』の「たま」はキンタマ(アラお下品!)のことなのですから。

 本書は『ラウンダバウト』(集英社)でブレイクスルーを果たした渡辺ペコ先生の、およそ1年ぶりとなる長編作品です。主人公は、大手新聞社に就職するも性に合わず退職し、今はお弁当屋さんでせっせと働く浅尾温子(あっちゃん)と、弁理士の岩城晃平(コーヘイ)の2人。大学の同級生だった2人ももう29歳。同棲生活5年目に突入し、なんとなく結婚のタイミングを逃したまま、それでも楽しい日々を送っていました。

 ところがコーヘイが同僚の弁理士・高野ゆう子を妊娠させてしまったことから、平穏な日常に波風が立ち始めます。当然のように怒るあっちゃん。どうしていいのか分からずに、とりあえず部屋の掃除をするコーヘイ。渡辺先生独特の落ち着いたトーンとじわじわ染み入るユーモアで、三十路目前の男女のドタバタが軽妙に描かれます。

 楽しい時間をともに過ごせる唯一無二の恋人や配偶者がいるのに、なぜに男は浮気するのでしょう? これは女性にとって永遠の謎でありますが、答えはごくごくシンプル。男には2つの思考する器官があって、それはすなわち頭とキンタマです。基本的に理屈っぽい生き物である男は、なぜか性欲が絡んでくると途端にまともな判断力を失うという習性がありまして、人類史上、それがゆえに無数の男女が苦しんできたわけです。

 一方、女性にもやはり2つの思考する器官があって、それが頭と卵子です。そう、「にこたま」の「たま」は、卵子のメタファーでもあるのです。「女の人ってさ 産まれたとき既に卵子のもとになる細胞を全部卵巣に持ってて 身体が成長するにつれてその一部が卵子になって、毎月ひとつずつ排卵されるんだってね」と言う、あっちゃんの友人で新婚ほやほやのナナコは、さらにこう続けます。「羊水はくさらないけど 卵子(たまご)は古くなるんだよねえ」。

 好むと好まざるとに関わらず、女性の生活と人生は卵子に左右されます。毎月の生理はもちろん、長期的には妊娠・出産のタイムリミットも考えざるを得ず、干上がったら干上がったで今度は更年期障害。「レンアイ セックス ケッコン ニンシン 女であるのにそれらを享受あるいは全うしないなんておかしい っていうか大丈夫? と言わんばかりの煽りのアナウンスが 様々な形で巷にはあふれているから それらのどれにも夢中にならずに(あるいは切望せず)生きているのは 『不自然な女』 『つまらない女』 『素直でない女』 と言われているような気がする」と言うあっちゃんの独白は、卵子に振り回される女という性の心の叫びであります。

 キンタマも卵子も「働き盛り」にある29歳の2人を通じて描かれるのは、キンタマに翻弄される男と、卵子に翻弄される女の、永遠のディスコミュニケーションと、そしておそらくは「赦し」です。どれだけ言葉を重ねても、どれだけ科学が発展しても、女にとって男は「他者」であり、その逆もまた真。「女性が別れたがったり何かを拒否する場面で 説明を拒まれてわからないときの本当の理由は だいったいは”キモいから”だと思っておいて間違いないよ」と言うコーヘイの先輩・大友さん。「男の人って妙にカレー好きだよね カレーとおっぱいがあれば1年くらい生きていけそう」と言うあっちゃんの店の店長・ともよ。埋め得ない溝を埋めるものは決して頭で考える「理解」ではなく、それ以外の言葉にはできない「何か」であり、そしてその「何か」が『にこたま』には描かれていくことでしょう。2巻が楽しみでなりません。

小田真琴(おだ・まこと)
1977年生まれ。少女マンガ(特に『ガラスの仮面』)をこよなく愛する32歳。自宅の6畳間にはIKEAで購入した本棚14棹が所狭しと並び、その8割が少女マンガで埋め尽くされている(しかも作家名50音順に並べられている)。もっとも敬愛するマンガ家はくらもちふさこ先生。

『にこたま』1

「最後の思春期」はいつ終わるんだろう

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