[連載]海外ドラマの向こうガワ

摂食障害まで!? 『愉快なシーバー家』の知られざる制作秘話

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『グローイング・ペインズ 愉快なシーバー家』
コレクターズ・ボックス /ワーナー・ホーム・
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――海外生活20年以上、見てきたドラマは数知れず。そんな本物の海外ドラマジャンキーが新旧さまざまな作品のディティールから文化論をひきずり出す!

 「パネルDジャパン」という言葉をご存知だろうか。1950年代から1960年代にかけて「敗戦した日本人の反米感情を押さえる」「日本人が米国文化を肯定するようになる」ことを目的に実行された、アメリカ政府の心理戦略のことである。そして、この戦略にはアメリカで制作された数多くのテレビドラマやコメディーが使用されていた。

 日本で制作されるテレビ番組がまだまだ少なかったこの時期、アメリカのドラマやコメディーは「ごく自然に」日本に輸出され、ゴールデンタイムに放送されるようになった。誰もが楽しめるエンターテイメントを通して、アメリカの自由な文化や風習、民主主義、正義感の強い人々、豊かな消費社会などを日本人に見せつけ、「アメリカは凄い」「かなわない」「アメリカ人のようになりたい」と洗脳させることを目指したのである。

 戦争ものやスパイもの、SFやメロドラマ、西部劇など、さまざまなカテゴリーのテレビドラマが日本に輸出/放送されたが、その中で最も効果的だったのは、ファミリー・シットコムだとされている。幅広い年齢層が楽しめる「笑いあり、涙あり」の単純明快なストーリーが魅力のファミリー・シットコムには、広い庭つきの一軒家、かっこいいアメ車、便利な電化製品、豊富な食料、対等な家族関係など、日本人が憧れ、目標にしやすい要素が散りばめられていたからである。

 このように、現在の日本のライフスタイルや生活環境を作ったのは、まさしくアメリカ・ドラマだったといっても過言ではない。だが同時に、ファミリー・シットコム作品は、アメリカ人にとっても憧れであり、「目標とすべき理想的なアメリカン・ファミリー」そのものだった。

 「理想」を描き続け人気を集めていたファミリー・シットコムだが、1985年、「理想的なアメリカン・ファミリーとは何か」「ファミリー・シットコムはこのままでよいのか」とアメリカの5大ネットワークに問いかけたドラマがスタートした。日本でも高い人気を誇った『グローイング・ペインズ 愉快なシーバー家』である。

 ニューヨーク郊外の住宅地ロングアイランドに住む、共働きの中流家庭で繰り広げられる「笑いあり」「涙あり」のファミリー・コメディーで、原題である「成長痛(グローイング・ペインズ)」のような思春期の子供たちが抱える「ちょこちょこした」悩みや問題、そしてそれを家族で乗り越える姿が評判となり、大ヒットした。

 大事件が起こるわけでも、ドラマチックな展開があるわけでもないが、「クリーンで理想的な共稼ぎ家庭」が描かれていると幅広い層の視聴者を獲得。見ていて安心できる内容の作品であり、また高視聴率番組であることから、当時売り出し中であった若手俳優や女優らが次々とゲスト出演するようになり、後々ハリウッドで大活躍することになるレオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピット、ヒラリー・スワンク、そしてジェニー・ガース、マシュー・ペリー、ブライアン・グリーンも登場している。

■「等身大の家族」を描くために、出演者に強いられた問題

 しかし、番組の成功とはうらはらに裏舞台では様々な問題が生じていた。

 長女役のトレイシー・ゴールドは、思春期の成長と共に増加する体重に悩み摂食障害に陥っていた。しかし、ドラマで笑いをとるために「太ってる」「彼氏がいない」とからかわれ続けていたため重度の拒食症になり、入院するために番組を降板。以降、TVコメディーでは思春期の女性に対しての体重ネタは控えられるようになり、その後放送された『フルハウス』で長女役を演じたキャンディス・キャメロンは「(体重に関しては)みんな、腫れ物に触るようだった」と語っている。

 そのキャンディスの実兄で、シーバー家の長男役として大ブレイクしたカーク・キャメロンは、シーズンが進むにつれ「自分が演じている役は、あまりにもモラルに欠如している」と脚本家やプロデューサー相手に猛反発するようになった。敬虔な福音主義のクリスチャンであるがゆえ、若者の性的描写を番組に取り入れることに関して頑固として反発したのだが、「時代は等身大のアメリカン・ファミリーを求めている」とプロデューサーらも反発。ネットワークは頭を悩ませ、譲らないカークに怒り番組を去るスタッフまで出る騒ぎとなった。

 「ファミリー・シットコムの決定版」とまで称されるようになった『グローイング・ペインズ 愉快なシーバー家』だが、以降「夫婦、子供みんなが幸せな理想的な家庭」を描いたファミリー・シットコムは5大ネットワークから子供向け専門局であるディズニー・チャンネルへとシフトするようになる。そして、代わりに誰もが共感できる「等身大」の「家族の誰もが問題を抱えている」アメリカン・ファミリー・ドラマ/コメディーが、ネットワークで放送されるようになったのだ。

 日本への心理戦略に抜群の効果を発揮したファミリー・シットコムだが、理想はあくまで理想に過ぎなかったのかもしれない。そういった意味でも、当時10代後半だったカークの奮闘により、ギリギリの線で「モラル的な理想の家庭像」が死守された『グローイング・ペインズ 愉快なシーバー家』は貴重な作品なのである。

堀川 樹里(ほりかわ・じゅり)
6歳で『空飛ぶ鉄腕美女ワンダーウーマン』にハマった筋金入りの海外ドラマ・ジャンキー。現在、フリーランスライターとして海外ドラマを中心に海外エンターテイメントに関する記事を公式サイトや雑誌等で執筆、翻訳。海外在住歴20年以上、豪州→中東→東南アジア→米国を経て現在台湾在住。

『グローイング・ペインズ 愉快なシーバー家 』(ファースト・シーズン) コレクターズ・ボックス

NHK教育での再放送を見ながら、夕飯食べたものです。

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