[連載]海外ドラマの向こうガワ

“ヒーロー”を探し求める米国人を充足させた『HEROES』の世界観

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『HEROS/ヒーローズ シーズン3』/ジェネ
オン・ユニバーサル

――海外生活20年以上、見てきたドラマは数知れず。そんな本物の海外ドラマジャンキーが新旧さまざまな作品のディティールから文化論をひきずり出す!

 アメリカ人ほど「ヒーロー好き」な国民はいない。弱きを助け強きを挫く、正義のために自らの危険を冒してまでも戦う。ヒーローは理想的なアメリカ人像であり、アメリカという国そのものを象徴するものだ、と考えているのである。

 彼らの「ヒーロー好き」を培っているのは、『スーパーマン』『バットマン』『ワンダーウーマン』をこの世に送り出したDCコミックや、『スパイダーマン』『アイアンマン』の生みの親であるマーベル・コミックが流行させたアメリカン・コミックだという説がある。これらの作品は、テレビ、映画化されるに留まらず、実写版も繰り返し制作。時代を代表する役者たちが「悪に立ち向かう孤独なヒーロー」を熱演し爆発的なヒットとなっている。

 アメリカン・コミックのヒーローたちは、誰もが超人的な力を持ち、「いかにも強そうな」コスチュームを身にまとって派手なアクションを繰り広げる。分かりやすく、スカッとするストーリー展開にアメリカ人は「これこそヒーロー」だと大フィーバーしてきた。しかし、ある日を境に彼らのヒーロー定義は一転する。2001年9月11日、アメリカ同時多発テロという悲劇が襲い掛かった日。燃えさかる世界貿易センタービルに、人々を救おうと迷わず飛び込んで命をおとした消防士たちに心を打たれたアメリカ人は、「彼らこそが真のヒーロー」だと崇めるようになったのである。そして、その後、テロリストを撲滅するため戦地にむかった兵士たちをヒーローだと呼ぶようになった。

 しかし、テロとの戦いが長期化、拡大化するにつれ、あまりにも多くの兵士や民間人が命を落としているという事実、そして精神的に肉体的に重い後遺症を抱えた帰還兵たちの実態が明らかになり、「ヒーロー」とは一体何なのだろうか、都合のよい飾り言葉なのではないか、という失望感が漂い始めるようになる。

 無駄死にするヒーローが多すぎる、ヒーローとは実はかなり損な役回りなのではないか、という空気が流れていた2006年9月。アメリカTV界を大きく変えたSFドラマがスタートした。日本語の「やったー!」という流行語を生んだ『HEROES/ヒーローズ』である。

 ドラマは、世界各地で突然スーパーヒーローのような特殊超能力に目覚めた人々が戸惑い葛藤するところから始まる。能力をコントロールできずに戸惑うもの、普通ではなくなった「モンスター」のような自分に悲観するもの、逆に「特別」な存在になったと喜ぶもの、彼らのリアクションは様々で人間くさい。やがて彼らは自分一人が能力を持っているのではないと気がつき、時を越え、空間を越え、吸い寄せられるように運命に向かい共に歩みだす。

 ドラマのクリエーター、ティム・クリングは、「地球は今大きな問題を抱えており、何か手を打たないと手遅れになるかも、という時点まできている」「そんな現代に、私たちのような普通の人間の中から危機を回避できるスーパーヒーローが現れたら素晴らしいと思った」とドラマのコンセプトを語っている。

 『HEROES/ヒーローズ』のヒーローたちは、アメリカン・コミックから飛び出してきたヒーローたちと異なり、ルックスが良いわけでも、カッコいいコスチュームを身にまとっているわけでもない。どこにでもいる、平凡な人々であり、しがらみに苦しめられながらも、地球を救おうと「不安を胸に」立ち上がる。彼らはアメリカ人が抱く「現代のヒーロー像」にドンピシャと重なり、ドラマは放送直後から爆発的なヒットとなった。自分たちと変わらぬ「普通」の人間が、普段着のまま派手なアクションを繰り返す姿が、彼らのヒーロー熱に再び火をつけたのだ。

 時代をポンポンと超えるため、敵や味方がはっきりしておらず、常に戦っている「戦場にいるのだ」という緊張感があることも、テロの脅威にいまだ強く怯えているアメリカ人の心をつかんだ要因だといえる。

 また、様々な人種がメインキャラクターとして登場し、全界を舞台に物語が展開するという設定の中で、やはり「中心はアメリカ」なのだという点が「テロとの戦争で一番頑張り、世界平和に貢献しているのはアメリカ」だと信じている人々の自尊心をくすぐったということも、ドラマを大ヒットへと導いた背景にあるといえよう。

 私たちの見えないところで、多くのヒーローたちが平和のために戦い続けている。犠牲になった多くのヒーローたちもいるが、彼らは決して無駄死にしたわけではない。9月18日に日本でDVDがリリースされたシーズン3では、そんなメッセージを視聴者は受け取ることになる。

 ヒーロー好きなアメリカ人が夢中になっている『HEROES/ヒーローズ』。彼らがなぜヒーローを必要としているのか、ドラマの中にその答えが隠されている。

堀川 樹里(ほりかわ・じゅり)
6歳で『空飛ぶ鉄腕美女ワンダーウーマン』にハマった筋金入りの海外ドラマ・ジャンキー。現在、フリーランスライターとして海外ドラマを中心に海外エンターテイメントに関する記事を公式サイトや雑誌等で執筆、翻訳。海外在住歴20年以上、豪州→中東→東南アジア→米国を経て現在台湾在住。

『HEROES/ヒーローズ シーズン3 DVD-BOX1』

日本人はヒーローより勧善懲悪が好き

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