"漫画界のアンファンテリブル"を直撃!

異例の4社合同フェアでデビュー、業界注目の漫画家・河内遙って?

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4社合同フェアの時のPOP

 新人作家としては異例の4社合同デビューフェアで、今熱い注目を集めるマンガ界の”アンファンテリブル(恐るべき子どもたち)”河内遙さん。各社担当者に惚れ込まれ、華々しいデビューを飾ったばかりの彼女にいち早くツバをつけとかなきゃ! というわけで、近い将来、大物作家になりそうな予感大の河内さんに漫画への目覚めと、早くも話題になっているフェア4作品について語ってもらいました。

――まずはご自身のマンガ原体験を聞かせていただけますか?

河内 子どもの頃は福音館書店の絵本が毎月家に届いたりしてたので、0歳児から絵本は眺めてたと思いますけど、うちにはマンガもたくさんあったんです。(註)24年組の少女マンガ家の詩集みたいなものもあったから、少女マンガとの出会いはそれが最初かも。

――それは小学生の頃?

河内 小学校に上がる前だと思います。その中に大島弓子さんの絵本で、幼なじみの男女が結婚するんだけど、その子たちのしたがる格好が男女逆で、男の子が花嫁衣装を着たがった、みたいな話もあって。そういう作品に触れて、男でも女でも自由な格好をしていいんだって意識が芽生えたりもしましたね。なので、女ならこうしなきゃいけない、みたいなジェンダー感への躓きがないまま、のんびりここまできた感じ。ただ私、ずっとイモ男子側だったんです。

――イモ男子!?(笑)

河内 文化系女子の中でもモテる女子と純粋イモ女子、それと、基本的にモテ側の華やかな生態系に属する体育会系とかありますよね。その中で私の立ち位置は、テニス部とかで目立つ友達なんかがいて、私はその脇役、という感じでした。だから友人と仲良くなりたいイモ男子と距離が近くなっていって……。

――そこって、実は美味しいポジションですよね。

河内 居心地はいいし、仲良しの子はモテるから、男子はその子にアプローチしたくて、私に協力を求めてくるというのはラクでしたね。だけど同業者の女性と話すと、「女子の中で居心地が悪かった」って言う人もいて、それまで知らなかったイモ男子側の景色がすごく気になるって。でも私は逆にずっとイモ男子側にいたから、弟を見ているような気分になっちゃって、イモ男子が主人公の作品にイラついたり、可愛いと思うより「何やってんだよ!」と思っちゃう。

――自分がイモ男子やほかの女性を含めた恋愛物語に参加することはなかった?

河内 うーん、なかったですね。ずっと第三者の視点でした。向田邦子さんのドラマで言うところの黒柳徹子さん的ポジションというか、ナレーション的というか。その居心地の良さが、自分にとっての”少女性”とフィットしてたんだと思います。なのでいまだに、自分が舞台に上がることには照れがある。少女マンガの読み方も、そこに自分を重ね合わせて泣いたりすることはなく、”見守り系”だったんですよね。そこが今、漫画家としての弱点でもあると思うんですけど。

――参加したい欲もなかったんですね。

河内 自分がいなくても成り立っている世界を眺めていたいんですよ。人によってはそれを寂しいと思うだろうけど、私は人が仲良くしたり、盛り上がってる姿を見て本当に幸せな気持ちになるんです。

――なんだか河内さんの作品が生まれる背景が見えるような気がします。でもイモ男子のやりとりを見てきたら、恋愛なんてバカみたいと思ったりは?

河内 美しいものを見てる感じはあるんですよ。たぶん他人を応援していたいんだと思います。スポーツ観戦と一緒で、”人間が築き上げてきた努力が報われるドラマ”が見たいんです。

――漫画家は天職ですね! さて、先日発売された4作品はいずれもタイプが異なりますが、中でも『ケーキを買いに』(太田出版刊)は、男性器のリアルな描写も含め、女性作家とは思えないほど生々しいエロスが衝撃的でした。

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『ケーキを買いに』(c)太田出版

河内 描写に限らず、ものをハッキリ描くのは好きです。女性はそこに引いちゃう人もいるから残念だけど、普段見られないからこそ好きなんですよ。パンチラにしても「そんなところから見るなんて!」という構図とか、一瞬ドキッとするじゃないですか。とりあえず『ケーキ~』を楽しんでくれる人とは友達になれますね(笑)。

――では江戸時代が舞台の短編を集めた『チルヒ』(小池書院刊)はいかがでしょう。

河内 『チルヒ』は描くのが楽しかったです。時代が違うと、どんな定番の物語も、その風俗が珍しいから成立しちゃうんですね。江戸に詳しいわけではないけど、資料は探せば膨大にあるはずだし、それを調べて、より正確なビジュアルに近づけられればとは思いました。もともと人が出会って別れるという瞬間的なものを書くのが好きなので、それが書けた作品でもあります。一番、ファンタジーなんじゃないですかね。

――そして『へび苺の缶詰』(祥伝社刊)。これは発表時期も幅広い作品を収録してますね。

河内 デビュー初期の作品も収録しただけに、出て一番ホッとしました。物語に関しては、冴えない人達の日常って、考えると泣きそうなくらい愛おしくなることってあるんですが、そういう思いを馳せた設定の話がメインです。

――そして恋に仕事に奮闘するOLを描いた『ラブメイク』(集英社)。原作付きのこちらはとくに、他の3作品と毛色が異なりますね。いってみれば、”月9″みたいな。

河内 制約のある中で読みやすいものを描くのは難しかったし、勉強になりましたね。働く女の人が読んで不快にならないものを目指した感じです。私の漫画に抵抗がある人が、「これだけは読めた」ということもありましたし。

――こうして見ると、河内さんの器用さを改めて実感します。

河内 1冊だと、「ちょっと苦手かも」と思われるかもしれませんが、あともう1冊を手にとってもらえれば、別の見方をしてもらえると思うかもしれません。頑張って2冊見てもらえば、という感じなので、よろしくお願いします(笑)。
(インタビュー・文=井上佳子)

【註】24年組……昭和24年ごろに生まれ、1970年代に活躍し、その後の少女マンガに大きな影響を与えた女性漫画家を指す。『エロイカより愛をこめて』の青池保子、『ベルサイユのばら』の池田理代子、『ポーの一族』の萩尾望都、『バナナブレッドのプディング』の大島弓子など。

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『ケーキを買いに』(太田出版刊)
高校時代に男子トイレで先輩と日々秘め事を繰り広げていた老紳士、彼氏からの暴力的行為という悦びにこだわり続ける乙女、病欠のクラスメイトの家で自慰行為を見せられる中学生女子委員長、太った同僚女性を冷ややか過ぎる目線で見つめるドSメガネ男子……。『マンガ・エロティクス・エフ』で連載された、一軒の街のケーキ屋を巡って繰り広げられる、禁断の性欲(?)にとりつかれたヘンタイ男女の日常を切り取ったエロティックな傑作オムニバス集。暴力的だったりSMチックだったりと、ちょっぴり倒錯したプレイやエッチな描写は鮮烈!

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『へび苺の缶詰』(祥伝社刊)
妻が仕事で不在中、4歳の息子・富士郎と自宅にいた池ノ上のもとに突然、後輩の浜田山が現れた。庭からやってくるという浜田山の不審さに富士郎は怯えるが、池ノ上はなぜか彼を温かく迎え入れると、二人は旧交を確かめ合うかのごとく昔話を始め……。池ノ上に恋する青年を描いた、ほんのりBLの香り漂う表題作や、池ノ上夫婦と彼の妻の親友がそれぞれの難儀な恋に苦闘する物語、また『アックス』に掲載された作者のデビュー当時の作品や、池ノ上たちのその後を描いた書き下ろし短編など珠玉の6篇を収録。

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『チルヒ』(小池書院刊)
髪結いの新吉は船上で春を売る女・おりんに恋をする。体に障害があるため遊郭では仕事ができないおりんは、体を縄で縛って傷だらけにする背徳の遊興に浸りたがる金持ち男を相手にするほか生きる術がない。そんな地獄にも等しい場所で、新吉とおりんは……。残酷さの中に美しさが輝く表題作をはじめ、騙し騙される男女のしたたかさ、遊郭で雨宿りした男が遭遇する不思議体験など、移ろう江戸の四季と市井の人々の生きざまを描いた時代短編集。身分格差や着る物といった風俗など、美しさと哀しさが調和した抒情的描写は圧巻。

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『ラブメイク』(集英社)
恋なんてそっちのけで仕事にのめりこんでいた凛子は、天職だと思っていた化粧品開発から、ある日突然、広報への異動を言い渡される。”作る”職場から”勧める”仕事へ。同じ社内でもまったく違う仕事内容に戸惑いながらも、少しずつ自分のやり方に活路を見出し始めるいっぽう、広報ウーマンとして出会った男性ライターや、この間まで開発の仕事を共にしていた仲間だった同僚男子もにわかに恋のお相手になりそうで…!? ドクターシーラボ全面協力、コスメ業界の裏エピソードも盛り込んだOL奮闘記。『コーラス』で連載。

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