[連載]海外ドラマの向こうガワ

現代版『ビバヒル』はセレブと貧困の格差を描く『The OC』

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『The OC 〈ファースト〉セット1』/ワー
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――海外生活20年以上、見てきたドラマは数知れず。そんな本物の海外ドラマジャンキーが新旧さまざまな作品のディティールから文化論をひきずり出す!

 90年代、日本で海外ドラマブームを巻き起こした『ビバリーヒルズ高校/青春白書』(以下『ビバヒル』)。ハリウッド成功者たちが多く住む超高級住宅街ビバリーヒルズを舞台に「庶民は滅多に」お目にかかれないセレブ・ティーンたちの日常を描いたこの作品は、あこがれの青春ドラマとして世界的に大ヒットした。

 お金に苦労しない若者たちが繰り広げる「浮世絵離れしたティーン・ライフ」を、アメリカTV界の巨匠「アーロン・スペリング製作総指揮」のもと、イケメン&スタイル抜群の美女が演じる、という、黄金の方程式でコンスタントに高視聴率を稼ぎ出した『ビバヒル』は、セレブリティー青春ドラマのオンリーワン的作品となってしまい、なかなか後に続く同系列ドラマが誕生しなかった。

 『ビバヒル』終了から6年が経った2006年。夢と野望に溢れた26歳の駆け出しプロデューサー、ジョシュ・シュワルツが、海岸のビバリーヒルズと称される全米指折りの超高級住宅地、オレンジ郡のニューポート・ビーチを舞台にしたセレブ青春ドラマを世に送り出した。スタイリッシュなドラマとして世界中のティーンを虜にした『The OC』である。

 放送開始前から、何かと『ビバヒル』と比較された『The OC』であったが、大きく異なる点が一つある。『The OC』の主人公は、格差社会の底辺に住み、悪環境ゆえ犯罪に巻き込まれ、実母からも捨てられたという「最悪な貧困層」を代表するような青年なのだ。

 この青年が起こしたとされる盗難事件を担当した熱血弁護士が、「更生の余地あり」「セカンド・チャンスを与えられるべき青年」だと判断し、学業で優秀な成績を収めることを条件に、ニューポート・ビーチにそびえたつ豪邸に引き取るところから物語はスタートする。

アメリカの格差社会を”リアル”を写すドラマ展開

 プールサイドの豪華コテージをまるまる与えられ、弁護士の「オタクでいじめられっ子」な一人息子と無二の親友になり、拒否反応をおこしていた弁護士の妻とも、セレブな奥様にありがちな、とある事件をきっかけに信頼関係を築くようになり、隣近所の大金持ちの美しい娘と恋仲になり……と、とんとん拍子にストーリーが展開するように見せかけ、毎回、青年を現実に引き戻すシーンが登場する。

 勉強が優秀で、美女から想いを寄せられるようになる青年を「面白くない」と感じる男子学生たちから、「毛並み」や「住む世界が違う」ことを嫌というほど思い知らされる場面が、頻繁に登場するのだ。

 また、青年は「親同士も社交的な繋がりがある」「セレブ社会の幼馴染」ばかりの学生たちが占める、セレブ名門校に居場所を見つけることができず、次第に馴染む努力さえしなくなってしまう。

 アメリカの格差社会は年々拡大傾向にあり、日本以上に深刻な社会現象となっている。アメリカン・ドリームはいまだに実現するとされているが、現代において、それは奇跡に近い。『The OC』では、その点を赤裸々に描くことで、ドラマをより一層リアルに演出することに成功したのだった。

 ニューポート・ビーチはビバリーヒルズと異なり、高校生が夜遊びできる場所が少ない。そのため「親が旅行中」に自宅豪邸でパーティーを開き、ドンちゃん騒ぎをするというスタイルが多いのだが、「友人宅だから」という「ぬるい意識」がティーンのドラッグ乱用やアルコール飲酒、そして無防備なセックスへと拍車をかけるものとなっている。そんな、閉鎖的で「やらしい」セレブ社会の実態もドラマには描かれており、視聴者を虜にした。

 また、格差は、恋愛にも大きな影響を与えており、青年は意中の「お嬢様」と相思相愛であるものの「貧困層出身の自分では、幸せにはできないから」と、深い交際に二の足を踏む。何も不自由なく育った「絶世の美女」である「お嬢様」は、青年の卑屈なまでの心の内が理解できず、悲劇のヒロインへと化してしまう。

 この「悲劇のヒロイン」を演じたミーシャ・バートンは、ドラマの視聴率に最も貢献した役者となった。アメリカ人が理想とする、スラリとしたスタイルに、どのアングルから見ても「ため息」が出るほど美しい顔。ミーシャが着る服は飛ぶように売れ、「何をやっても許される」気品あふれる雰囲気に近づこうと、アメリカの若き女性たちはミーシャのスタイルを真似するようになった。

 そして、シーズンを重ねるごとに、ミーシャが演じるキャラクターの「ファッション・スタイル」や「華麗なる転落ぶり」のみが注目されるようになり、ミーシャが「燃え尽きた」と降板した後、視聴率はガタ落ちに。結果、日本でも8月20日にSuper! drama TVで放送されるシーズン4で番組は終了してしまった。

 その後、ミーシャは、皮肉にもプライベートで悲劇のヒロインに成り下がってしまったのだが、ファッション・リーダーであった彼女は今なおメディアから注目される存在であり、出世作である『The OC』も彼女がトラブルを起こすたびに引き合いに出されるからか、今なお世界中で根強い人気を誇っている。

 一度聞けば、頭から離れなくなるオープニング・ソングと美しいニューポート・ビーチの海。煌びやかな世界と、厳しい現実を教えてくれる『The OC』は現代のアメリカを最も反映しているドラマの一つだといえるのではないだろうか。

堀川 樹里(ほりかわ・じゅり)
6歳で『空飛ぶ鉄腕美女ワンダーウーマン』にハマった筋金入りの海外ドラマ・ジャンキー。現在、フリーランスライターとして海外ドラマを中心に海外エンターテイメントに関する記事を公式サイトや雑誌等で執筆、翻訳。海外在住歴20年以上、豪州→中東→東南アジア→米国を経て現在台湾在住。

『The OC 〈ファースト〉セット1』

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